小説 ~しあわせは子猫のかたち~

失はれる物語

著者名: 乙一

出版社: KADOKAWA(角川書店)

発売日: 2006/06/25

ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス


「しあわせは子猫のかたち」は乙一さんの短編作品です。


ここでは「失はれる物語」に収録されている一編として挙げていますが、

角川つばさ文庫版や、角川スニーカー文庫版の「失踪HOLIDAY」にも

収録されています。私は他の短編も好きな理由から「失はれる物語」が好きです。



あらすじ


この話の主人公は人付き合いの方法に悩み、世界を遠ざけることで平穏な

生活を望んでいる学生です。大学入学をきっかけに、独りになりたいがために、

一人暮らしを始めようとした主人公が伯父の所有する古家に移り住み始めます。


ただ、入学前に下見に来たとき、その家は誰かが住んでいるような状態であり、

詳細を伯父や近所の人に確認したところ、写真が趣味で、近所の人に慕われていた

若い女性、雪村サキが住んでいたと聞きます。そして、不幸にも彼女は3週間前に

自宅で通り魔に襲われて殺害されていたことがわかります。


その家に引っ越した後、恐らく雪村サキが面倒を見ていたと思われる子猫が

いることに気づき、最初は戸惑いながらも子猫と一緒に生活を始めるのですが、

その後、不思議な現象が起こって……という形で話が進んでいきます。


主人公はその家での生活と大学での生活を通して、人との係わり方に対する

姿勢が変化してきます。またとある違和感に気づき、ある謎の真相に迫っていく

ことになります。


この話もですが、この小説には「死」を扱っている話がいくつもあります。

他にもそういった小説がいくつもあると思いますが、この小説は

登場人物が何かしらの死に触れた上で「どう生きるか」に話の比重がおかれている

ように感じ、そのため読後に切なくも優しい気持ちになれる小説だと思いました。

(本多孝好さん著作の「MISSING」のような「死」を取り扱いながら、

前向きとも後ろ向きともいえない淡々とした不思議な感じもおもしろいですよ)



映像化について


「しあわせは子猫のかたち」が収録されている「失はれる物語」について、

いくつかのお話が映像化されています。

成海璃子さん、小出恵介さん、片瀬那奈さん主演の「きみにしか聞こえない」(Calling You)

中村邦晃さん、小深山菜美さん主演の「失はれる物語」

小池徹平さん、玉木宏さん、栗山千明さん主演の「KIDS」(傷 -KIZ/KIDS-)

内山理名さん, 忍成修吾さん主演の「手を握る泥棒の物語」


また、この小説でなくても乙一さんが原作で映像化された作品には、

市川由衣さん、須賀健太さん主演の「SEVEN ROOMS」や、

別名義の作品でも映画化された作品があり、多数にわたります。


ただ、残念ながらこの「しあわせは子猫のかたち」は映像化されていないようです。

私はとても好きなんですが人気ないのでしょうか……



感想と雪村サキについて


ここからは若干のネタバレ有で話を進めていきます。




前回、映画「エリザベスタウン」の記事で、

マニック・ピクシー・ドリームガール(MPDG)を紹介しました。


この物語のヒロイン的存在である雪村サキは、

決してそこまで大胆や予測不可能な行動をとるわけではありません。

せいぜいテレビのチャンネルを勝手に『大岡越前』に変更したり、

カップラーメンを準備している間に家中の箸とフォークを隠したりの

微笑ましいいたずらレベルです。


ただ、彼女は幽霊(主人公いわく、成仏できない何者か)というまさに

ピクシー的、ドリーム的なガールと言っても過言ではないでしょう。


また、MPDGは芸術的センスが優れているキャラクターが多いです。

雪村サキの場合は、音楽やファッションといったものの代わりに写真という

手段が用意されています。そして、この写真が物語のサスペンス部分にも

ヒューマンドラマ部分にもキーアイテムとして活かされています。


終盤に雪村サキから主人公に残した手紙があるのですが、

その内容もとても印象的なものでした。


この話はわずか50頁にも満たないのですが、読みやすく、

きれいにまとまっており、素敵な作品に会えてよかったです。

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