アンダー・ユア・ベッド
著者名: 大石圭
出版社: KADOKAWA
発売日: 2001/3/10
ジャンル:ホラー、恋愛
「アンダー・ユア・ベッド」は大石圭さんのホラー・恋愛小説です。
物語のプロローグで主人公が他人の家のソファーの下から夕食の準備をしている女性を観察している、そして夜が更けてくるとベッドの下から他人の夫婦の夜の営みの様子に神経をかたむけている、というなかなかホラーな状況から物語が始まります。
「恋愛」カテゴリにいれるかどうかは迷ったのですが、主人公の以下の台詞を決め手にいれました。何をもって恋愛とするか難しいところはありますが、異常な愛やいびつな恋といった形もあるということで……
浜崎千尋が好きなのか?
そうきかれたら、「はい」と答えたい。そう答えることぐらいは許されるはずだ。
だが、彼女を自分のものにしたいか?ときかれたら、僕には答えることができない。千尋を、いや、誰かを幸せにする方法など、僕にはわからない。
主人公は30年間ただただ地味に生き続けている存在です。
19歳のときにたった1度喫茶店でコーヒー(マンデリン)を飲んだだけの相手、佐々木千尋との会話が彼にとって唯一といっても過言ではない幸せな思い出でした。
2年前、28歳のときにコンビニの帰りのエレベーター内でふと彼女がつけていた百合の香水に似た匂いを嗅いだ刹那に、もう1度あのときの幸せの感覚を思い出したいと願い、興信所を利用して9年前に1度お茶しただけの相手を探し出し、ストーキングしていくことになっています。
しかし、最初からベッドの下に潜り込むレベルでストーキングする意図はなく、最初は1度だけ彼女の姿を見れれば満足し、その思い出を糧にまた孤独な生活を続けていくつもりだと言っていたことがわかります。
なぜ主人公がそこまで彼女に執着したかについて、主人公の持つ異常性ももちろんあったでしょうが、この物語ではもう一人、異常性を持つ登場人物がいます。
佐々木千尋は24歳のときにすでに結婚して、浜崎千尋になっており、5歳年上の浜崎健太郎という夫がいました。この健太郎がもう一人の異常者です。
浜崎健太郎は外面は非常によいのですが、家庭内では極度のコンプレックスを持つDV男であり、千尋に対して異常なまでの言葉と体への暴力を浴びせています。
正直、主人公の異常な行動のホラーな部分よりも、健太郎が千尋に対する行為のほうが目を背けたくなるレベルで繰り返し行われ嫌悪感を覚えます。
よって、この話を読んでいるとなぜか主人公を応援したくなるときがあります。
それほど健太郎の千尋に対する暴力の理由も度合も異常です。
ただ、千尋を過酷な現実から助け出せるのは主人公だけです。
しかし、30年間日陰で孤独に生きてきた主人公のため、なかなか難しいところもあります。助けられるかどうかの問題はもちろんのこと、上手くいったとしても自身がストーカーしていたことが高い確率で相手に知られることになります。
また、本当に主人公に千尋を助けたいという意思があるのかの問題もあります。
盲目的なのは明らかなのですが、これを情熱的な純愛と呼んでもいいものなのか、おもしろい作品でした。
熱帯魚が出てくる作品について
さて、この作品の主人公は観賞魚店を経営する個人事業主となっており、金魚やグッピーや聞いたことのない名前の熱帯魚が出てきます。
「観賞魚(熱帯魚)が出てくる作品は名作」と話を聞いたことがありますがいかがでしょうか。
邦画でパッと思いつくだけでも、「そのときは彼によろしく」、「冷たい熱帯魚」は主人公がアクアプラント店と熱帯魚店を経営してますし、「FRIED DRAGON FISH(フライド ドラゴン フィッシュ)」や「アカルイミライ」でも観賞魚のシーンが印象的でした。
小説も先にあげた「そのときは彼によろしく」の原作は市川拓司さんの小説であり、梨木香歩さんの「エンジェル・エンジェル・エンジェル」ではエンゼル(エンジェル)フィッシュを主人公が飼育しています。
恒川光太郎さんの「夜市」には印象的な金魚の表紙カバー、そして未読なのですが、吉田修一さんの小説でタイトルが「熱帯魚」という小説もありますね。
まあ挙げだしたらきりがないのかもしれませんが、洋画ではパッと思い出すことができませんでした。
どうも洋画ではアクションシーンで水槽は壊されるためのアイテムでしかないイメージがあるのかもしれません。
そういえば、映画「怒り」でお店の水槽が破壊されるシーンがありましたが、あれ原作にはないって聞いたことがあるのですが本当なのでしょうか。
となるとやっぱり映像作品のアクセントして観賞魚や水槽はなかなか役に立つようです。
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