サクリファイス
著者名: 近藤史恵
出版社: 新潮社
発売日: 2010/01/28
ジャンル:スポーツ、サスペンス
「サクリファイス」は近藤史恵さん著作のロードレースを題材としたサスペンス要素も含むスポーツ小説です。
第10回の大藪春彦賞を受賞し、第5回本屋大賞では第2位となっています。
私がこの小説を読むきっかけとなったのは新潮社さんの短編集(アンソロジー)「Story Seller」で収録されている、この小説のサイドストーリー的な作品「プロトンの中の孤独」を読んだからでした。
あまり知識のなかったロードレースの醍醐味をわかりやすくおもしろく描いており、読後の爽快感もよかったです。短編のため、先にこちらから読むのもありだと思います。
ただ、「サクリファイス」に登場する人物の「サクリファイス」では描かれていない人物像が書かれているため、本作品のサスペンス要素がその短編を読んだ後だと若干薄れてしまうかもしれません。一方で、短編を読んだ後で読む本作品も、その人物像を知っているからこそ味わえるおもしろさがあると思っています。
あらすじ
主人公の白石誓(しらいし ちかう、愛称 チカ)は高校時代に中距離ランナーとしてインターハイで優勝した経験もあるアスリートでした。
走ることは好きだが個人の記録や結果に固執したことはなく、それとは裏腹にどんどん大きくなる周囲の期待に嫌気がさしていたところ、たまたま深夜にテレビで放送していたロードレースを見てその魅力にとりつかれました。
そして、大学入学と同時にロードレーサーに転向し、卒業後に日本のプロのロードレースチーム「チーム・オッジ」にスカウトされて2年目のレーサーです。
頂点を目指す「エース」としてではなく、チームとエースのためならどんな犠牲も厭わない「アシスト」として掴む勝利こそが自分の走る理由になりえるという強い動機と、もともと備えていた身体能力や性格的なものも活かし、チームの中でも戦力としてそれなりに重宝されています。
そんなチカが日本でのロードレース「ツール・ド・ジャポン」でエースを優勝させるために、過酷なレースの舞台に挑むことになります。
感想
アシストとは使い捨ての駒でしかないのか、エースとはどういう存在なのか、アシストの役割と自分の勝利が天秤にかかったらどうするのか、ロードレースの部分だけでもかなり楽しめると思います。
作者の近藤史恵さんは推理作家であり、本作品でも複線をめぐらせたサスペンス要素もあります。それについてはここで言及するつもりはないのでぜひ読んでみてください。
近藤史恵さんのロードレースを題材にした作品は、続編として「エデン」、
前述した「プロトンの中の孤独」を含む短編集「サヴァイヴ」、
舞台を大学の自転車部に代えた「キアズマ」、
そして本作と「エデン」の続編にあたる「スティグマータ」と豊富にあります。
私はあまり小説でシリーズ物は読まないのですが、このシリーズはすべて読んでいます。
ロードレースの世界、その世界の人間ドラマがおもしろいと思えればはまります。
「他人に自分の人生乗っけてんじゃねえよ」とサッカーのサポーターに言った某議員様がいましたが、その方にとってはアシストの役割も同じような扱いにされるのでしょうか。
「ヘルプ」と「アシスト」と「サポート」はそれぞれ別の言葉、考え方として比較されます。どうせすらなら相手のプレッシャーや重圧にならず、かつ同じ目標に向かって役立てるように、最適なやり方を選びたいものです。
もう勝つことは怖くはない。ぼくの勝利はぼくだけのものではない。
その尊さをぼくは知っている。
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