小説 ~天使のナイフ~

天使のナイフ(てんしのナイフ)

著者名: 薬丸岳(やくまる がく)

出版社: 講談社

発売日: 2005/08

ジャンル:サスペンス、司法・法廷・犯罪


「天使のナイフ」は薬丸岳さん著作で、過去に少年犯罪の被害者として妻を殺された主人公のもとに、当時の犯人の一人が殺害されたと刑事が訪ねてき、容疑をかけられた主人公が真相を追い、少年たちの更生を確かめるサスペンス小説であり、少年犯罪を題材とした社会派小説です。


本作品は第51回の江戸川乱歩賞を受賞されています。


2005年には小出恵介さん主演でWOWOWの連続ドラマとして映像化もされています。

ちなみに、11月22日のいい夫婦の日に吉木りささんとの結婚を発表した和田正人さんも出演しています。



あらすじ


主人公の桧山貴志(ひやま たかし)はフランチャイズ契約を結んだコーヒーショップで店長を務め、保育園児の一人娘、愛実(まなみ)と暮らすシングルファザーです。


妻である祥子(しょうこ)は4年前に3人の強盗目的の少年たちに殺害されています。


愛する妻を殺された桧山の痛みと犯人への憎悪は決して消えるものではありませんが、それを少しでも緩和してくれるとすがって願ったものは犯人の逮捕と相応の罰でした。

しかし、後に犯人を捕まえたという連絡と同時に警察から知らされた話は、犯人は13歳の少年たちであり、少年法があるために逮捕ではなく補導という形となること、また、犯人が罪に問われもしなければ、被害者家族は事件の詳細も加害者がどんな人間かもまったく知ることができないという、桧山を更に絶望させる内容でした。


そして、連日のマスコミの取材攻勢は被害者家族の傷口を広げていき、司法も人権擁護派の弁護士は残された被害者家族の存在に目もくれない、桧山は心の底に抑えつけていたある感情を終に吐露してしまいます。

「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」


そして事件から4年経過して、少しずつ娘との平穏な生活を取り戻そうとする桧山の経営するコーヒーショップに当時の事件を担当していた刑事が客として訪れてきます。


刑事との会話の中で不穏な気配を感じていた桧山に対して、前日の夜、店の近くの公園で殺人事件があったことが刑事から告げられます。

そして、その被害者が4年前の事件の加害者である少年Bであることが告げられます。


自身が容疑者候補となっていることもありますが、何より当時の事件の詳細と加害者が本当に更生しているのかを知るきっかけになるのではと考え、桧山は事件の真相を追うことになります。



感想


同じく江戸川乱歩賞を受賞され、過去にこのブログでも取り上げた高野和明さんの「13階段」は、死刑制度、加害者の更生、刑務官を中心とした社会派小説でしたが、こちらは、少年法と被害者の視点を中心とした社会派小説となっています。


私は江戸川乱歩賞のなかでも「13階段」が特に好きなのですが、こちらの小説もかなり好きな小説です。

(江戸川乱歩賞といえば、藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」も群を抜いて好みなのですが、個人的に藤原伊織さんの作品では「シリウスの道」のほうが好きなので……)


被害者の目線で話が進むために、一部の残酷な描写や主人公の置かれている状況に目を閉じたくなるシーンもありますが、だからこそ少年法が本当に必要なのかを考えるいいきっかけになっていると思います。


少年法も2000年以降、数回にわたって改正されています。

刑法41条「14歳に満たない者の行為は、罰しない」や、少年法61条「記事等の掲載の禁止」等、子どもの更生と被害者の救済、天秤にかけられないものである一方で、法律における法の下の平等とはいったい何なのか、この小説を読む前と読んだ後では、少年法に関する意見の見方が変わる人もいると思います。

現に私は、この小説を読んだ後では、少年法について述べてる意見を見ても、被害者感情を一切記載していない意見はどれだけ少年保護の観点で素晴らしくてもまったく入ってこなくなりました。

本来江戸川乱歩賞と社会派小説は関係ないのでしょうが、「13階段」とこの作品と大変おもしろく読ませていただきました。


サスペンスとしても誰が犯人か、なぜ犯行に及んだかの謎と解明は怒涛に襲ってきます。

ただ終盤の登場人物間の関係は少しやりすぎだったのではと思っています。


「被害者の存在を無視して、真の更生などありえないのに」

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