舞台 ~肝っ玉おっ母と子供たち(2)~

公 演:無名塾「肝っ玉おっ母と子供たち」(きもったまおっかあとこどもたち)

原 題: Mutter Courage und ihre Kinder

劇作家: ベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht)

演 出: 隆巴(りゅう ともえ)

舞台統括: 仲代達矢(なかだい たつや)、林 清人(はやし きよと)

公演期間:2017/10/14(土) ~ 2017/11/12(日)

公演会場:能登演劇堂


2017年10月、能登演劇堂で公演されている無名塾の舞台 「肝っ玉おっ母と子供たち」を観劇してきました。


前回記事は公演会場である能登演劇堂の話が中心でしたが、今回は演目「肝っ玉おっ母と子供たち」とその内容についてを中心としています。




肝っ玉おっ母と子供たちについて


今回観劇した「肝っ玉おっ母と子供たち」はドイツのアウクスブルク出身の劇作家、ベルトルト・ブレヒトさんの劇曲です。


17世紀のヨーロッパで発生した三十年戦争(宗教戦争)を背景にして、幌車(ほろぐるま)を曳いて行商する女性商人であるアンナ・フィアリングを主人公とした戦争を題材とした作品です。


ちなみにAmazonを見ていると、「母アンナの子連れ従軍記」というタイトルで出版されている文庫もあります。


どちらが好きかは好みによると思いますが、タイトルについて少し考察してみると、原題の英語版(ドイツ語の品詞はなおさらにわからないので……)は「Mother Courage and Her Children」であり、直訳で“母の勇気”と”子供達”です。

「Courageous Mom and Her Children」という“勇敢な母”と”子供達”で等位されているわけではありません。

つまり原題からは“母”と“子供達”の物語ではなく、あくまで“母”が主役であると判断できるため「母アンナの子連れ従軍記」のほうが原題に近い気がします。

ただ、それでも今回のタイトルとなっている「肝っ玉おっ母」という言葉がとてもいい味を出しているため、年を重ねても覚えているのはこっちのタイトルな気がします。



さて、著者のブレヒトさんは叙事演劇や異化効果を提唱したことで有名です。

(私にはまったく理解できない内容なのですが……)


“リアリズム”という言葉が本作品パンフレット内の記事で用いられていましたが、本作品における叙事演劇や異化効果を端的に理解しやすくするための言葉としてとても適切でわかりやすい表現だなと感じました。


“ロマンティシズム(イディアリズム)”として、戦争は悪だと決め付けるのもいいですが、じゃあなぜ戦争はなくならないのでしょうか、"リアリズム(現実的)”に考えましょう、良い面も悪い面も見るべきである、という風に捉えるといいのかなと考えています。


そして、いくら客観的に見ようとはしても、結局肝っ玉おっ母に感情移入してしまうのも、また一つの作品の魅力でもあり、舞台の魅力なのだと思います。




感想(上演について)


フライヤーの裏に「命と家族を描く壮大な反戦劇」と表記されていますが、この作品の主人公であるアンナは死の商人と呼ばれる戦争を生業としている人であり、戦争がなければ困ってしまう立場の人間となるはずです。

つまり、私達はある意味では戦争を迎合する立場の人間の視点で反戦劇を見ることになります。

(これもある種の異化効果としてもよいのでしょうか、ちなみに劇中でアンナにずばり「あなたは死の商人だ!」と指摘している場面もありました)


一方的に戦争は悪だと思わせない反戦作品で、しかも主人公を実際に戦時中に空襲も経験したことがある仲代達矢さんが女形として主演される、これは期待しないほうが難しいと思います。


そして実際に観劇した感想としては、やはり期待以上に満足できました。


特に印象に残ったのは、

(良い点)

・商人にとって大切な幌車と劇場の特性を利用した開演からの演出

・各場ごとに登場する語り手と歌い手

・大きいお兄ちゃん(アイリフ)

・肝っ玉おっ母のドキッとする言動

・個人的に当初は長いかもと思っていた上演時間


(気になった点)

・二つの場の内容(意味)


でした。



個人的には80分休憩なしは長く感じてしまうのですが、二幕はアッという間でした。


語り手と歌い手は松崎謙二(まつざき けんじ)さんと吉田道広(よしだ みちひろ)さんの声がかっこよかったという単純な理由だけでなく、話がとても理解しやすく、ストーリーを追うのに苦労するということが基本なかったです。

叙事演劇ということであれば、舞台を客観的に見れるようにするために、この語り手と歌い手(と演出)の役割は非常に大きいのかなと思っていた中で、役者さんのすごさを堪能できました。


大きいお兄ちゃんを演じていた進藤健太郎(しんどう けんたろう)さんの演技もアクションや歌も含めて印象が強く残りました。


そして、この作品の舞台の魅力としては、肝っ玉おっ母がときに見せるある種の残酷な言動を舞台を通して見れることだと思います。

「できそこないの木」の表現や「戦争の再開を喜ぶ」といった、ある種の残酷なリアリズムを観客に提示する場面について、それが演じられるときの張りつめた緊張感や空気感、ハッとしてしまう気持ちを頭ではなく、その場で体感できることは舞台の大きな魅力だと思います。



一方で、先ほどストーリーを追うのに苦労することが基本的にない、と言っていますが、一幕の「敗北の唄」の場と二幕の「士官用のシャツ」の場の内容については、残念ながらあまり理解できなかったかなというのが感想です。

私にとっては上記の二つの話はあってもなくても恐らく満足度に違いはなかったと思います。

二回目を見るか原作を読む等、いずれリベンジしたいと思います。




終わりに


北陸のような決して人口が多くない地域で、素晴らしい劇場と劇団と作品に触れられることは大変ありがたいことであると改めて思いました。


そういえば七尾市の高校の生徒も観劇に来ていましたね。

恐らく演劇部の生徒の課外活動だとは思われますが、高校生のときにこのような舞台を観劇できたり、その劇団の人たちと係われたりするのはうらやましいと思います。


チケット状況がわかりませんが(このあたりの運営は少し残念ですね)、ロングラン公演のため迷っている方はぜひ観劇してはいかがでしょうか。



余談ですが、パンフレットには作品や劇団の解説的なお話も盛りだくさんです。

2017年の31期性の小話とかも見れます(福井出身の方がいらっしゃるんですね)。

こういった機会がきっかけになる等で北陸出身者の活躍が増えていけばいいなと思います。



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